我々人間の生活において時間というものは欠かせない概念です。
彼女とのデートとの待ち合わせ、電車とバスの時刻表、学校の時間割、テレビ番組の開始、飛行機の離着陸、目覚ましの設定、ソシャゲのイベントクエストの開始...
挙げるとキリがないですが、いずれも何時何分から何時何分までとか、明確に定められていますね。
そして時間の最小単位と言えば1秒というのは、もう皆さんご存知だと思います。
この1秒を起点にして、1分は60秒、1時間は3,600秒、1日は86,400秒となっています。
しかしそもそもこの1秒って、何を基準にしてその長さが決められているのか、みなさんご存知ですか?
普段何気なく用いる1秒ですが、調べてみたら実はある原子と深い繋がりがあったのです!
今回は1秒の定義とその変遷についてわかりやすく解説していきます、ぜひご覧ください!
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1秒の定義を一言で表現すると?
いきなり結論からになってしまいますが、この1秒の定義をわかりやすく一言で表現すると以下のようになります。
1秒とはセシウム原子の発する電磁波の周期の約92億倍の時間
この定義は国際度量衡委員会という国際機関によって、1967年の決議で定められました。
現在各国において採用されており、日本では1972年に改正された計量法でも採用されました。
でもこれだけだと正直何のことかよくわからないですよね。
いきなりセシウム原子とか出てきて、かなり混乱しそうです。ましてや「92億倍という巨大な数字って何なの?」と思う人が多いでしょう。
一体全体なぜ1秒がこんな定義になったのでしょうか?
ここからはより具体的に1秒の定義について、その歴史とともに探っていきます。
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1秒の定義は昔と違う?
今では1秒の長さは上でも紹介した、国際度量衡委員会の定義に沿ったものとなるのですが、この定義は1967年に採択されたものです。
実はそれ以前、大昔は今の1秒の定義とは違っていました。
ここで皆さん1日の時間の長さを考えて見ましょう。
1日とはご存知24時間ですね。ではこの24時間はどう定義されているのかといいますと、
地球が一回転して太陽が同じ位置に戻ってきた時=地球の自転の周期
となります。
この24時間を秒で換算すると、1日が24時間で、1時間で60分、さらに1分60秒なので、
24×60×60=86,400(秒)
となります。
1日の長さは秒で換算すると86,400秒なので、1日を86,400分割した値こそが1秒の長さとなります。
この定義は実際に、1951年に制定された日本の計量法でも記されました。そしてその文章の中には、「東京天文台(現国立天文台)が観測によって測定する」とあります。
1日の長さは変わる?
ここまでの説明を振り返ると、「1秒の長さは1日の86,400分の1でいいじゃないか!」と思いたくなりますよね。
しかしこの定義だと少しだけ問題が生じてきました。
実はこの定義の問題点は地球の自転を考慮に入れているのですが、地球の自転の周期は一定ではなく、海流や大気の循環、さらに大地震などでもほんの僅かですがズレたりします。
このズレはクォーツ時計の精度が向上したことで発覚しました。
もちろん誤差が生じるといっても、何万分の1秒という長さなので、直ちに人間の生活に影響を及ぼすことはないでしょうが、これが長い間蓄積されたらどうなるでしょうか。
地球は誕生して46億年経過していますが、実は誕生直後の1日の長さはたった5時間しかなかったのです!
何十億年という歳月で上記で挙げた、天変地異や自然の要素、さらに摩擦などが加わり続けたことで、1日の時間は徐々に遅くなっていったのです。
1日の86,400分の1という定義は確かに便利ですが、1ヵ月後や1年後、さらに10年後も同じ長さとは限りません。
もしくは遅くなるかと思いきや速くなったりもします。実際ここ40年間では、1日の長さはむしろ短くなっているのです。
このように短期的な区分で見た時に、1日の時間が86,400秒より長くなったり、短くなったりするので、その際に国際原子時とのズレを調整するために挿入されるのがうるう秒です。
2017年の元日の朝にうるう秒と言って8時59分59秒の後に1秒だけ追加されます。原子時計で1日の正確な時間を計測すると、これまでとは若干の誤差があることがわかって、その誤差を修正するために実施されたのがうるう秒です、仕組みについてわかりやすく解説します!
ここで国際原子時という聞き慣れない言葉がでてきましたが、これこそセシウム原子時計によって決められた時間です。
それまで天文学の知識で決められていた1秒の定義を、今度は量子力学を用いて決めた、まさに画期的なアイデアでした!
セシウム原子と1秒の関係は?
1秒の定義にも採用されたセシウム原子ですが、これは原子番号55のアルカリ金属で、常温で液体となっている金属です。
原発事故の放射性セシウムで一躍有名になりましたが、なぜセシウム原子が選ばれたのでしょうか?
実はセシウムは天然では同位体が存在せず、かつ沸点が671℃と低いこともあって、他の元素に比べても使いやすいという性質があります。
そのためどの原子でも、世界共通で同じ測定結果を得るのに好都合だったのです。
原発事故のインパクトがあまりにも強すぎる物質ですが、その原子が時間の最小単位を決めているのはなんとも複雑な気持ちになりますよね。
ではこのセシウム原子で、どのようにして1秒の長さが決められるのでしょうか?
先ほども説明したことのおさらいになりますが、1秒の長さの定義は一言で説明すると、「セシウム原子の発する電磁波の周期の約92億倍の時間」ということでした。
しかしこれだと大雑把すぎるので、もっと正確な定義をここでご紹介しましょう。
セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移により放射される電磁波の周期の9192631770倍に等しい時間
引用元:秒 – Wikipedia
これが正式な1秒の定義です、もはや何がなんだかわからないですね。
そもそもなぜ電磁波が急に出てくるのかが謎ですよね。
これは量子力学の分野になって凄く難しくなるので簡単に解説しますが、要は全ての原子や分子が放出・吸収するマイクロ波のことで、固有の周波数を持っています。
当然セシウム原子も電磁波を放出するのですが、その電磁波はどう放出されるのかといいますと、電子との間で放出されます。
全ての原子は原子核とその周りを電子が飛び回っているのですが、その電子との間でエネルギーが移動する際に放出されるのが電磁波です。
この電磁波の波長と周波数はエネルギーの変化分で、一定の数値になります。
「2つの超微細準位間の遷移」とは、言い換えれば「エネルギーが2段階分変化する」という状態で、この時に電磁波が1回振動する時間の約92億倍、これが1秒の長さとなるのです。
約92億倍になった理由は?
ここでさらに出てくる疑問としては、「なぜ約92億倍という数字なの?」ということですよね。
正確には「91億9263万1770倍」」なのですが、確かに凄く中途半端な数字です。
実はこのような数字になった最大の理由は、それまで定められていた1秒の長さの時間と一致させるためだったのです。
この定義が定められたのは1967年の時で、それ以前は「1日の86400分の1」が1秒の長さとして採用されていました。
しかし前述したように、この1秒の長さだと今後ズレが生じていろいろと不具合が起こりやすいので、そのズレを解消すべくより精度の高い1秒の長さを決める必要が出てきました。
ここで活躍したのが、アメリカ海軍天文台とイギリスの国立物理学研究所の研究グループです。
彼らは3年間の共同研究で、地球の自転だけでなく星と月の動きも観測して正確な1秒の長さを得ることに成功しましたが、その1秒の長さに一致させるように調整した結果、上記のような巨大な数字になったというわけです。
ところがこの1秒を基に定められた1日の長さは、86,400秒ではなく「86,400.002秒」で、2ミリ秒だけ長い程度になってしまいました。
この2ミリ秒が国際原子時と世界時(UT1)との間で生じる誤差になりますが、この誤差を修正するためにうるう秒が採用されたということになります。
こうして現在において原子時計の礎を築いたセシウム原子ですが、その精度の高さは大変素晴らしく、何と3000万年に1秒程度の誤差しか生じません!
おまけ:将来はもっと高精度になる?
ここまでは現在採用されているセシウム原子による1秒の定義のお話でした。
しかし近い将来この定義が変わるかもしれません。
実はより高精度な時計として、「光格子時計」というものが提唱されているのですが、現在日本の東京大学と産業技術総合研究所によって開発・研究がされています。
前者がストロンチウム光格子時計で、2001年東京大学の香取秀俊教授によって2005年に開発に成功しました。
理論的にはセシウム原子時計の1000倍となる「300億年に1秒」程度の誤差しか生じない精度です、宇宙の年齢よりも長いですね(^^;
後者がイッテルビウム光格子時計で、こちらはストロンチウム光格子時計の精度すら上回る可能性があるとされています。
しかし2010年までに行われた実験では、「60万年に1秒」の誤差が生じる結果となっていて、まだセシウム原子時計の方が精度的には上回っています。
いずれの光格子時計もマイクロ波による原子時計と基本的には同じ仕組みです。
ただし光格子時計の方が、原子時計よりも振動の回数が10万倍と多くなっている分、より正確に1秒の長さを測れるというのです。
まだ発展途上で実用化の目途は立っていませんが、2026年に行われる国際度量衡総会までに新しい秒の定義として見直される見込みとなっています。
アインシュタインの特殊相対性理論についていろいろと解説していきます。光速度不変の法則と合わせてそれまでのニュートン力学を覆したと言われる新理論とはどんな内容なのか、同時刻の相対性も図を使ってわかりやすく紹介します。
そしてこの光格子時計を用いれば、何と人間の歩くスピードでも時間の遅れが観測できるようです。どういった原理かは不明なのですが、特殊相対性理論を身近に観測できる日もそう遠くないかもしれません!
まとめ
今回は1秒の定義を歴史と共に深く掘り下げてみました。それでは今回の内容をおさらいしましょう!
- 1秒の長さはセシウム原子の放出する電磁波の周期の約92億倍の時間
- 昔の1秒の長さは1日の長さの86,400分の1だった
- 約92億倍という数字になったのは、昔の1秒の長さに近づけるため
- セシウム原子時計の誤差は最高で3000万年に1秒
- 1日の長さを原子時計で測定すると、誤差が生じるのでうるう秒で調整した
- より高精度な光格子時計の研究が進んでいて、2026年を目途に新しい1秒の定義になる見込み
我々人間の生活に欠かせない時間の最小単位である1秒には、これだけの意味と歴史があったことに改めて驚きました。
科学の発展で1種類の原子の電磁波の周期で決められていたのは凄く意外かもしれませんが、仮に遠い将来、地球以外の惑星に人類が移住してもこの定義なら安心して1日の長さが決められます。
いつの時代でも時間というのは、人間にとって大切なものであることに変わりないですね。
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