今回のテーマは長さの基本単位である1mの定義についてです。
普段の生活で新しい机や椅子、タンス、冷蔵庫、食器洗い機を購入する際に、「何cmまでなら買って大丈夫だ。」と判断するためには、長さを正確に測る必要がありますね。
家電や家具となると30cm定規では小さいので、恐らく巻き尺を使う人は多いと思いますが、その巻き尺の目盛りは1m単位で大きく区切られています。
学校の算数の授業でも習いますが、m(メートル)といえば長さの基本単位でお馴染みですね。
日常生活のみならず陸上の短距離走や、水泳のプール槽の長さなんかもmで測るのが基本です。
ではこの1mの長さって、どう決められているのでしょうか?
1mとは〇〇の長さとなっている!
と断言できる人は恐らく少ないでしょう。
今回は知っていそうで知らない、1mの定義について詳しく掘り下げていきます!
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1mの定義を一言で表すと?
では結論からになりますが、1mの定義を一言で簡潔にまとめます。
1mとは1秒間に光が進む距離の約3億分の1である。
このようになります。因みに約3億分の1と書いてありますが、正しくは299,792,458分の1となります。
何だかとてつもなく巨大な数字が出てきましたね。また光がどうしてここで出てくるのかも謎です。
実は調べてみたら1mの定義も1秒の定義と同様、昔と大きく変わっていたのです。
次の章からそれぞれ詳しく見ていきましょう!
※1秒の定義について詳しく知りたい方は以下の記事をどうぞ!
時間の最小単位はご存知1秒ですが、その1秒の長さ・定義は一体どのようにして決められているのか?調べてみるとある元素が大きく関係していたのです!昔の1秒の定義とうるう秒との関係も含め、わかりやすく解説していきます!
mは「メートル」と読みますが、これは実はフランス語の「metre」です。語源を探ると、「ものさし」や「測定」を意味する古代ギリシャ語のメトロンという言葉の造語に当たります。
英語の「meter」(メーター)も語源は同じです。
昔の1mの定義は違っていた?
今でこそ当たり前に用いている1mという長さの単位ですが、この長さの定義が歴史上最初に決められたのが1791年のフランスで、その当時は以下のように決められていました。
地球の子午線全周長を4千万分の1にした長さ
引用元:メートル – Wikipedia
ここで子午線全周長という聞き慣れない言葉が出てきましたね。
これは地球の北極と南極を通って地球を1周する線を指します。
つまりこの線の4千万分の1の長さが、昔の1mの長さだったのです。
円周=2πR=2×3.14×6371=40,009.88
つまり約4万kmとなるのですが、kmは1,000mと同じなので、4千万mの4千万分の1、すなわちほぼ1mと同じになります。
この案が出された時代はまさに大航海時代で、世界中で様々な物のやり取りが国境を越えて行われていました。
しかし長さの定義が各国でまちまちな状態では、かなり不便ですよね。
そこで世界共通の基準として、地球の長さが最適だと考えられたのです。
ところが地球の円周という尺度を用いるなら、赤道だって同じになります。
実際1790年のフランスの国民議会でも、赤道の全周長を取り入れる案は出たのですが、フランスから遠いことと、熱帯地域のため天候がスコールなどで不安定になりやすく測定するのが困難という理由で却下されました。
因みに地球は完全な球ではなく楕円です。極地を通る子午線よりも赤道長の方が若干長いので、同じ4千万分の1で計算するとズレが生じてしまいます。
我々が住んでいる惑星はご存知地球ですが、その地球の一周の距離がどのくらいかご存知ですか?実は赤道と北極と南極を通る円周で違うことがわかりました!またそもそも地球一周の長さがどのようにして決まったのか、長さの定義も合わせて詳しく掘り下げていきます。
地球を1周して実際に全周長を測定すること自体が非現実的なので、測量は
「パリを通過する北極点と赤道を繋ぐ子午線長の1千万分の1」
すなわち地球の全周長を4等分にした長さの1千万分の1、という妥協案で決着しました。
地球の長さから白金の棒へ!
一見普遍的でナイスアイデアと思われたこの定義も、その後の地球科学の発展で、地球の地殻表面は単純な球体ではないので、絶対的な基準とするには馴染めないことがわかってきました。
だからといってもう一度地球の長さを測定するのは、莫大な費用と労力がかかるため現実的ではありません。
1799年に実際に子午線全周長を測定し、それを4千万分の1にした値は採用されたのですが、その長さを基にして今度はメートル原器を制作しました。
因みに当時のフランスで用いられていた長さの単位で、1mは3ピエ11.296リーニュと換算されます。
この長さの白金の棒がメートル原器で使われ、1869年からメートルの基準と変更されました。
しかし白金は温度によって多少伸縮する性質があるので、零度での長さが基準となりました。これが国際メートル原器となって1960年まで1mの基準として用いられたのです。
クリプトンのスペクトル長へ!
時が経つにしたがって、長さの基準は「光の波長を用いたほうが効果的だ!」と一部の科学者は提案しました。
その理由は光は宇宙中に存在し普遍的なので、絶対的な基準としては相応しいと言えるからです。
しかし光は波としての性質があるのですが、困ったことに異なる元素の物質から発せられる光は異なる波長となっています。
全ての電子はエネルギーを吸収し放出する性質があります。この性質はセシウム原子時計にも使われています。
この光の波を発する元素として使われたのが、クリプトンです。映画『スーパーマン』に出てくる物質としても有名ですね。
これが真空中で発する電磁波の波長の1,650,763.73倍の長さが、1960年から新しい1mとして採用されました。
小数点以下の0.73という数字になっているのは、メートル原器の長さに調整したためです。
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光速を用いる案で決着!
様々な紆余曲折を経て、現在の定義である光の速度を用いる案に辿り着いたのは、1983年の時です。
この時点で既に1秒の定義がセシウム原子時計の誕生によって正式に定まり、光の進む距離も正確に測定できるようになりました。
また光は波に該当するのですが、これは宇宙のどこでも不変な速さです。
こうした諸々の理由から、光が1秒間に進む距離から1mを割り出せば、正確な1mの長さが決まります。
でもそこで肝心となるのが、光の速度ですよね。
ここで算数の問題となるのですが、距離は光の速度と時間との掛け算で求まります。
時間は1秒で決まりなので、あとは光が秒速何mなのかがわかれば、1秒間に進む距離がわかります。
そこで光の速度ですが、ここで出てくる数字が約3億mです。
正確に言えば、光は1秒間に2億9979万2458m進むということですが、簡単に言いますと地球の7周半の長さになります。
因みにそれまで用いられていた光速の測定値は、1926年にマイケルソンという科学者が測定した2億9979万6000±4000m/sでした。
この測定値と、セシウム原子時計で測定した正確な1秒との掛け算で、1秒間に光が進む距離が求まるのですが、それまでの測定で得られた1mの長さと若干ですが合わなかったのです。
メートル原器での1mで地球の7周半の長さ、即ち地球の直径×7.5の数値と微妙にですがズレていたのです。
それを解決するために、光速度を合わせる必要が出てきました。
そもそもそれまでの光速の測定値自体が±4km/sの幅があるので、なおさらここで調整する必要があるのです。
そこでそれまでの1mに近い値にしようとした結果、2億9979万2458m/sという速度になりました。
この数字自体も、1926年に測定された光速の±4km/sの範囲内なので、これによって真空中の光速も299,792,458m/sと定義されたことになります。
以上をまとめると1983年は、以下の2つの定義がまとまることになりました。
- 1mの長さは1秒間に進む光の距離の約3億分の1であると定義された
- 光速度が299,792,458m/sであると正確に定義された
光速度と1mにはこんな因果関係があったのです、科学の世界は本当に奥深いですね。
まとめ
今回は1mの定義について詳しく見ていきました。それでは今回の内容をまとめます。
- 1mの長さは1秒間に進む光速度の2,9979,2458分の1
- 昔の1mの定義は地球の子午線全周長の4千万分の1
- 地球の長さをもとにしてメートル原器が作られた
- 光速度不変の原理と1秒の定義が正確に定まったことで、光の進む距離を採用した
- メートル原器の1mの長さと合わせるために、光速度の値を調整し直した
長さの基本単位である1mも、結構複雑な経緯を辿っていたんですね。
でも測量と言えば、江戸時代に日本地図をほぼ正確に描いた伊能忠敬も負けてはいませんよ。
日本の文明開化がもっと早ければ、1mの定義は日本人が定めていたかもしれません。
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