学校の理科の授業で電流について学ぶ機会があります。

家庭の電化製品を動かす電流ですが、その電流の向きについて

乾電池のプラス極からマイナス極の方向

という内容で教わった人が多いでしょう。

だけど乾電池について、もっと詳しく勉強してみたら、意外な事実を知ってしまいます。

それは電子の向きはマイナス極からプラス極であるということ!


すなわち電流と電子の向きが逆になるんです、一体これってどういうことでしょうか?

好青年

化学反応式でも学ぶけど、マイナス極で発生した電子がプラス極に向かってややこしかったよ。

外国人男性

どうして電流と電子って向きが逆なの?そもそも違いって何?

電流と電子の向きが逆であることは、長い間僕自身も理科の授業で混乱していた内容の一つでした。

どうしてこの2つの向きが逆になるのか?その理由を詳しく見てくいきましょう!




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電流と電子の向きが逆の理由とは?

電流は+極から-極へ、電子は-極から+極へ流れる。

川の流れで例えるなら、川の流れと水の移動が逆になっているような感じですが、どうしてこんな逆転現象が生じたのでしょうか?


結論から言いますと、

先に電流の向きを+極から-極へと決め、後から電子の流れが逆だとわかった!

ということです。

科学者をも困らせるお話なんですが、先に電流の向きを決めてしまったのはいいけど、後から見つかった電子の流れる向きと逆だったというだけでした。

「そんなややこしい話はうんざりだからという理由でその向きを修正しよう。」となると、とても面倒でいろいろな不都合が起きてしまいます。

その不都合なことについては後で詳しく述べますが、このような歴史的経緯の影響で、いまだに電流と電子の向きは逆になっているんです。


でも先に電流の向き自体が+極から-極だと決まったわけですが、これはどうしてなのでしょうか?

その向きについては、やはり電池の発明が大きく関係したんです。

というこでまずは、先に決められた電流の向きについてのお話からいたしましょう!

電流の向きは電池の+極から-極へ

歴史を振り返ってみると、電流のほうが電子よりも先に発見され、その向きも+(プラス)から-(マイナス)へと定められました。

電流の向きが決まった理由や由来については、いつ誰によって決められたのかハッキリしたことはわかりません。

というより大昔は電気というものの正体すらわからなかったのです。

「電気というものは存在して、その流れが電流なんだけど、何が原因で流れが発生するのかはわからない。」

といった感じですね。

ぼんやりとしていたイメージしか捉えられなかった電流も、ある科学者のある発明によって変化が起きます。


その発明とは乾電池の元祖、ボルタ電池です。この電池の発明によって、はじめて電流の向きが定められたとされています。

ボルタ電池とは、イタリアの物理学者ボルタが1794年に発明した電池です。

現代の日常生活でもありふれた電池ですが、当時の電池は今みたいに小型の円筒のような形はしておらず、電気分解という物理現象を用いた原始的なものでした。

これが当時のボルタ電池の画像ですが、見てわかる通り、2つの金属板を硫酸の中に入れることで、2つの金属板の間に電流が流れます。

金髪の若者

理科の実験でも習ったけど、本当に電球がピカッと光るんだよね。

さてこの時、2つの金属板を入れるわけですが、どっちが+でどっちが-になるかわかりますか?

実は入れる金属板の種類によって、+か-かに分かれるわけですが、その答えとなるのが金属のイオン化傾向です。

理科の授業では、

「イオン化傾向の差が大きい金属同士を入れることで、電位差が生じて電流が流れる」

と習うと思います。


イオン化傾向の難しい話はここでは省略させていただきますが、ボルタ電池では2つの金属として銅と亜鉛を用います。

そして銅と亜鉛の2つの金属板を入れると、何が起きるのかといいますと、化学反応が起きます。

具体的には

  1. 亜鉛が溶け出す
  2. 銅の表面で気体が発生し泡を立てる

の2つです。

この2つの化学反応を比べると、亜鉛のほうは溶け出すので徐々に小さくなっていき、銅は気体が発生するだけで小さくもなりません。

サイズが小さくなる、だから亜鉛を-(マイナス)極にしました。

一方で銅は+(プラス)極となりました、大きさが変化せず気体が新たに発生するので+と捉えたのでしょう。

このようなイメージから、電流の流れる方向が、+(プラス)から-(マイナス)になった、と昔の科学者は考えたわけです。




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1900年頃に電子が発見!

大昔の人が定めた電流の向きでしたが、この定義を大きく覆すような発見が1900年頃にありました。

その発見をしたのがイギリスの物理学者トムソンで、彼が1897年に行った陰極線の研究で初めて電子が発見されました。

電子はマイナスの電荷を持っていた粒子で、それが-から+へ動くことで電流が流れることがここで初めてわかったのです!

電池の-極と+極の間に豆電球を導線でつなぐと、その導線内で-から+の方向へ動いていたということです。

これを先ほど紹介したボルタ電池で解説してみます。

ボルタ電池では-極が亜鉛版、+極は銅板ということでした。


では肝心の電子はどこで生まれたんでしょうか?

その答えとなるのが金属のイオン化傾向です。

ボルタ電池で使われる液体は酸性の硫酸ですが、それに亜鉛を入れると亜鉛が溶けていきます。

この亜鉛が溶ける過程で、実は亜鉛の原子の中にあった電子が離れていくのです。

そしてこの亜鉛原子から電子は、導線を通ってそのまま銅板に向かいます。

そして銅板に辿り着いた電子が、硫酸の中にある水素イオンと結合します。

銅板の周囲で発生する気体は、この時電子と合体して生じた水素分子(H₂)となります。

この一連の過程を化学反応式で表すとこうなります。

女性キャスター

ボルタ電池の実験からも確かに、電子が-極から+極へ移動するのがわかるね。



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もし電流の向きを逆に定義したら?

1900年代になってようやく電子が発見され、長年の謎だった電気の正体もわかりました。

ということで「電流の向きもその電子が流れる向きである!」と定義すべきですよね?


しかしそのようなお話しにはなりませんでした。

なぜなら当時の科学界では、電流の向きを+から-へ定義したことを前提した重要な法則で満ち溢れていたからです。

具体的には、

  • 電磁誘導の法則
  • 右ねじの法則
  • フレミングの左手の法則
  • ビオ・サバールの法則
  • ジュールの法則
  • マクスウェルの方程式


など、挙げるとキリがないですが、これらの法則は全て電流の向きは+から-という前提の下で説明されています。

もし電流の向きを電子の向きに変える、つまり逆にしてしまうとどうなるでしょうか?

いろいろな不都合や反発が起きるでしょう。

例えば、

  • 右ねじの法則は左ねじの法則になり
  • 左手の法則が右手の法則になり
  • 電磁気学のほぼ全ての法則を-の符号で直さないといけなくなり

などなど、いろんな場面で修正の嵐です。


特に右ねじの法則と左手の法則は、電気の分野では基礎となります。

これが逆になるだなんて、正直もっての外ですよね。

物理学会だけでなく、高校や大学の入試の修正、学校の教科書や参考書の内容まで書き換えなくなってしまうのではないでしょうか?

要するに科学界だけでなく、学校教育にも重大な影響を及ぼすわけです。

現時点では、電流と電子の向きが逆だからって正直誰も困っていません。

キャラ1

電流は+から-に流れているけど、電子はその逆に流れている。それがどうした?

みたいな感じですね(^^♪


「学問的には統一させてすっきりしたい!」

という理由だけでは無理があるということです。

若いギャル

これがいわゆる「大人の都合」ってやつだね。

電流の向きの正式な定義は?

以上の説明から電流と電子の向きが逆であることと、その理由がわかりましたね。

だけど実はこのお話には続きがあるんです。


物質を原子レベルで考えるなら、そもそも電子というのはありとあらゆる物質に存在します。

そして一つ一つの原子は、電子と原子核から構成されています。

さらに電子は負の電荷を帯びていて、原子核は正の電荷を帯びています。

つまり電子が移動するということは、「電子が一つ減って正の電荷を帯びる」ことを意味します。

これの逆で電子が入ってくることは、「電子が一つ増えて負の電荷を帯びる」ことを意味します。

上で紹介したボルタ電池だと、電子が減った亜鉛は亜鉛イオンとなりますが、これはまさに正の電荷を帯びています。


以上の話から電流の向きと電子の向きを別の表現で直しますと

電流は正(プラスの)電荷が流れる向きで、電子は負(マイナスの)電荷が流れる向き

となります。

※電荷についてはオーロラの発生にも大きく関係しています。詳しくはコチラの記事で!

正電荷が動くのは見た目上だけ?

だけど正確に言えば、正電荷は動きません。

負電荷は電子になりますが、正電荷は原子核となります。

原子核は原子を構成する重要な粒子です、これが自由に動くだなんてあり得ないですね。


正電荷が移動するというのは、あくまで見た目上そうなっているだけのお話です。

なぜそうなっているのか、下の画像で説明します。

上の画像で一番左の電子が、移動すると仮定します。

電子が左へ移動した原子はその足りなくなった電子を、すぐ右側の原子から補っています。

するとその原子も電子が足りなくなるので、今度はまたすぐ右にある原子から電子を補充します。


これを繰り返すと、確かに電子は左へ移動していますが、一番右にある原子は電子が補充できないので正に帯電します。

つまり電子が一個左へ移動するごとに、正の電荷があたかも右に移動しているように見えるわけです。

よって負電荷が左へ動くことと、正電荷が右へ動くことがイコールとなります!

この自由電子の過不足を上手に調整した物体として有名なのが、半導体です。

特に半導体のn型とp型はシリコンという物質に特定の元素を混ぜることで、電子の流れを制御しています。詳しくは以下の記事をご覧ください!

まとめ

今回は電流と電子の向きが逆になっている理由と、歴史的背景について掘り下げてきました。改めて内容を振り返りましょう!

  • 電流の流れる向きは+から-、電子の流れる向きは-から+で逆
  • 電流の流れる向きは電子の発見より前に決まった
  • 電子の発見は1900年に入ってから
  • 電流の向きを逆に定義すると、これまで発見された科学法則を直さないといけないから大変
  • 電流の向きの正式な定義は正電荷の流れる向き、電子は負電荷の流れる向き

昔の偉人が発見した需要な科学法則で、見つかる順番が逆だっただけに過ぎません。

運命のいたずらと言えばそれまでなんですが、正直現代の受験生の多くが混乱しているから、なるべく早めに統一してほしかったなぁと感じています。




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