「翼を大きく広げ、虚空を駆け巡り、大きな口から紅蓮の炎を吐き、大地を震わせ、雷鳴の如き怒号を鳴らし、長い髭と鬣をなびかせる巨大な蛇」
さてこの一文で思い浮かべる伝説上の生き物と言えば何でしょうか?
翼を持っていて、口から火をはく。となれば竜だね!
Yes,その通り!
一瞬でわかった人もいるかもしれませんが、正解は竜となります。
ただ敢えて「竜」という漢字で表記しましたが、実はもう一つ「龍」という漢字もあるんですよね。
どっちが正解なのか、あるいは違いって何なのか、考えたことありますか?
そういえば「坂本龍馬」も「坂本竜馬」って書く時があるし、どっちが正解なの?
こんな疑問を抱く人も少なくないはず。
ということで今回は、知っているようで知らない「竜」と「龍」の違いを徹底特集します。
また同じく「竜」を意味する漢字として有名な「辰」についても触れていきますよ!
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龍と竜の違いとは?
「竜」と言えば伝説上の生き物としてお馴染みであり、RPGの世界でも引っ張りだこですね。
ただし冒頭でも紹介しましたが、「龍」という表記もあります。その違いを一言で説明するとしたらこうなります。
「龍」は旧字体で、「竜」は「龍」を簡略化した常用漢字
はい、たったこれだけの違いです!
なんだか凄く拍子抜けですね!(^^)!
要するに「龍」という漢字はちょっと難しいから、やや簡単な「竜」の方を常用漢字として用いています。
常用漢字なので、学校の授業でも「“りゅう”を漢字にせよ。」という問題が出されたら、「竜」が正解となります。
ただここで誤解してはいけないのは、「竜」が常用漢字だからといって、日本で登場したオリジナルの漢字というわけではないということです。
ここで少し漢字の成り立ちについて見ていくことにしましょう。
漢字の成り立ちについて解説
「竜」、もしくは「龍」という漢字は、ご存知中国の伝説上の生き物から来ている象形文字です。
その姿は口に長髯をたくわえ、喉下には逆鱗があり、顎下に宝珠を持っていて、四つの足がある蛇に似ています。
アニメ『ドラゴンボール』に登場する神龍が、まさにそのような外見をしていますね。
象形文字といいますが、もとは冠をかぶった蛇の姿が由来となっています。その形だけ見ると、実は「竜」の方が似ているんですね。
その起源はかなり古く、紀元前の王朝「殷」の時代には既に出来上がっていました。
そして「龍」という漢字は、後の時代に様々な模様や装飾が施された結果完成した漢字です。
明の時代には以下のような字体となりました。
ということでこの流れからすると、「竜」の方が古字となって、「龍」がそれを基にできた漢字となるわけです。
ただ「竜」という漢字は中国ではあまり一般的ではないようです。烏龍茶とか龍角散のど飴など、「龍」の方が広く使われていますね。
この流れを受けて、日本でも昔は「龍」の字を用いていました。
例えば
- 山梨県甲斐市の「龍地」
- 茨城県石岡市の「龍明」
- 静岡県磐田市の「天龍」
などを見てもらえればわかるように、地名で使われていますね。
そして地名でも広く使われたことから、人の名前としても採用されるようになりました。
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なぜ「竜」が常用漢字に?
「竜」も「龍」も両方とも使われてはいましたが、この流れが変わったのが戦後の国語改革にあります。
第2次世界大戦後、日本では「国語表記の平面化と教育上の負担を軽くする」ことを目的とした施策が行われました。
この改革の一環で、それまで使われていた難しめの漢字を、わかりやすく簡単な漢字でまとめようとしたのです。
当然ながら「龍」もその対象に選ばれました。
画数も多いので、無理に学校の授業でも習う必要はないと判断されたんですね。
ところがいざ「龍」を使わないようにしようとすると、この漢字が名前に入っている人からしたら困るわけです。
自分の名前の漢字が常用漢字ではなくなることで、名前の表記も『「竜」に変えてください。』と言われたらどうですか?
親が付けてくれた大切な名前の表記を変えられることで、嬉しく思う人はいないでしょう。
何より戸籍や表札の表記まで変えないといけないので、自分だけでなく役所の人の仕事も増えて大変です!
他にも上で紹介したように、地名として採用している自治体もあるので、大反発を喰らうことは避けられません。
こうした事情があることから、名づけや地名においては例外的に「竜」と「龍」の両方を採用することが認められました。
実際に漢字辞典オンラインで「龍」を検索してみると、「常用漢字」ではなく「人名用漢字」として区分されています。
戸籍法施行規則別表第二として指定されており、「龍」以外だと「寅」や「杏」、「巴」などがあります。
坂本龍馬と坂本竜馬はどっちが正しい?
「龍」を使う名前で有名な人物と言えば、なんといっても坂本龍馬ですね。
上の説明でもわかるように、人名については例外的に「龍」と「竜」のどちらでもいいとされています。
ただし江戸時代に今みたいな正確な戸籍はないので、あくまで後世の人にその表記は委ねられている形になります。
坂本龍馬本人によると、「龍」を使っていたとされていますが、作家司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』では「竜」を使っていますね。
司馬遼太郎曰く、
小説の中のリョウマは自分が動かす人物として描いており、実在したリョウマと区別するために敢えて「竜」にしました。
とのことです。
本物のリョウマがどんな人物だったかはわかりませんが、生粋のリョウマファンからしたら、「龍馬を使えよ!」と言われそうですね。
英語の訳し方では変わってくる?
ここまでは「竜」と「龍」の違いについて、あくまで常用漢字か人名用漢字という観点で説明してきました。
しかし英語にあたる「Dragon(ドラゴン)」を和訳する時に、若干の違いがあるみたいです。
ここで中国で登場する「龍」の姿を解説しますと、先ほども一部紹介しましたが、蛇のような姿で空を這い上がります。
これがいわゆる「東洋風のドラゴン」のイメージです。
一方で「ドラゴン」という生き物は、西洋でも登場しますが、こちらは東洋風とは全く異なる外見をしています。
西洋ファンタジーに登場するドラゴンと東洋ファンタジーに登場する龍は意味的に伝説上の生き物という点では共通していますが、その姿・形、また人間との関係性や扱われ方について大きく違っているようです。
こちらの記事でも触れていますが、「西洋風のドラゴン」はファンタジーや神話でよく登場し、外見はトカゲのような姿で翼を持ち、二本足で立ちます。
中国の「龍」とはまるで違いますね。
そのため「西洋風のドラゴン」を和訳する時は、『「竜」をあてはめた方がよい。』という意見もあります。
ただし明確に使い分けなければいけないというほどではないので、あくまで「好ましい」という程度にとどめてください。
- 東洋風のドラゴン=「龍」が好ましい
- 西洋風のドラゴン=「竜」が好ましい
「竜」と「龍」も、意味するものは全く一緒ですから(*^^*)
むしろ西洋風のドラゴンは姿形が、中国の「龍」とまるで違うので、和訳に最適な単語かも怪しいくらいですね。
おまけ:「辰」について解説!
最後に少しおまけで「辰」の漢字について触れたいと思います。
干支でおなじみの漢字ですが、読み方は「たつ」でドラゴンとして扱われる漢字です。
十二支の中では5番目に数えられています。
どうして「竜」や「龍」を使わないの?
という疑問を抱く人も多いと思いますが、これはそもそも全く別の漢字なのです。
実は「辰」以外にも、十二支として使われている漢字にはそれぞれ犬や馬、兎など動物のイメージがありますが、これらの漢字はもともと方角や時刻、星座などを表現するために使っていたのです。
十二支の由来は中国の「殷」の時代にさかのぼりますが、後の世の人々が覚えやすいように適当に割り当てたにすぎません。
同じ干支である「酉」が「鳥」となっているのも同様です。
2017年は酉年とされています。ただし普通の漢字で使われるのは鳥の方ですが、この両者はどう違うのか?調べてみたら意外な事実が判明しました。また鶏の起源とされる動物についても解説していきます。
※ソースはウィクショナリー日本語版から
まとめ
今回は「竜」と「龍」の違い、そして「辰」の漢字についても紹介しました。それではまとめといきましょう!
- 「竜」は新字体で常用漢字、「龍」は旧字体で人名用漢字
- 漢字の成り立ちを探ると、大蛇が冠を被った姿である「竜」の方が古字にあたる
- 人の名前や地名については「龍」を使ってもよい
- 東洋風のドラゴンだと「龍」、西洋風のドラゴンだと「竜」が好ましい
- 「辰」は同じドラゴンを意味する干支で、由来は全く別の文字
また「竜」と「龍」はともに天子や英雄のたとえにもされていました。
坂本龍馬の影響もあって、人の名前に使われるのも納得ですね。
子供の頃は「龍」が難しくて書きづらいと思うかもしれませんが、大人になるとその字の深い意味を理解して考えが変わりますよ!
【こちらの記事もどうぞ!】
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