巨大な渦を巻いた台風は、毎年そのいくつかが日本に接近したり上陸したりして、大きな被害をもたらします。
いわゆる熱帯低気圧よりもさらに発達した低気圧、というのが台風のおおまかな定義なんですが、その巨大なエネルギー源って一体何なのか考えたことはありますか?
どうやったらあれほどの巨大な渦を巻いて、風速も凄まじい勢いを誇るようになるのでしょうか?
天気のニュースとか見ると、たまに大きな樹木とかも平気でなぎ倒されている光景も目にするよね。
よく温暖化や海水温とかが台風の発生に大きく関与していると聞くけど、その理由って何だろう?
日本で生活する上で、台風と言うのは切っても切り離せない存在です。
そんな台風について少しでも理解を深めるためにも、そのエネルギーの源について化学の視点から掘り下げていきましょう!
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台風のエネルギー源とは?
さて結論からになりますが、台風の巨大なエネルギー源となっているのは、みなさんもよくご存じの身近なものが関係していたのです。
その身近なものとは、水蒸気です!
といっても、ただの水蒸気が巨大な渦を巻く台風を生み出すわけではありません。
その水蒸気は水が蒸発して気体と変化したものですが、実はその変化の際に熱エネルギーが移動します。
すなわち高温に暖められた海水が蒸発し、その蒸発した大量の水分が放出する熱エネルギーが台風のエネルギー源となっているのです!
水が水蒸気になるのは知っているけど、熱を出したり吸ったりするのも同時に起きてるの?
もっと難しい専門用語で解説しますと、「凝縮熱」という熱エネルギーが大きく関係しています。
ここで必要となるのが、水が水蒸気になったり、水蒸気が水になったりする際の熱エネルギーの移動についての知識ですね。
ここで簡単に水がどのようにして蒸発するのか、そしてどのくらい熱エネルギーが移動するのか、その原理から紹介していきましょう!
水が蒸発する仕組みとは?
温めたお湯をコップに入れて、一定時間経つとお湯は冷たくなります。
この際にお湯から白いモヤモヤした湯気が立っているのが見て取れますが、これが水蒸気です。
水はどんな温度でも蒸発しています。
そもそも「蒸発」というのは、「液体の表面からその液体の分子が表面から離れていく現象」という意味です。
ではなぜ液体の水が離れて行ってしまうのかというと、液体を構成する分子はどんな温度でも一定の運動エネルギーを持っているためです。
この運動エネルギーが大きければ大きいほど、蒸発するスピードも速くなり、水蒸気の量も多くなります。
ですから温めたお湯の方が多くの湯気(水蒸気)が目に見えるほどわかるのは、水の温度が高くそれだけ運動エネルギーが大きいからなのです。
これが最も激しく起きる温度が100℃、いわゆる沸点ですね。
水がボコボコと泡を立てて沸騰していますが、これは普段なら水の表面でしか起きない蒸発と言う現象が、水の中でも起きるからです。
水は蒸発する際に熱を奪う!
さてここで重要となるのが、水が蒸発する際の熱エネルギーの移動です。
先ほど説明したように、水が蒸発するには一定の運動エネルギーが必要です。その運動エネルギーを簡単に上げる方法が、水の温度を上げることです。
水をいれたヤカンをコンロの火で加熱すると、水がどんどん蒸発していくのですが、これは言い換えれば
コンロの火の熱エネルギーを水が奪って、それを蒸発するエネルギーに変える
ことになります。
水を加熱するというのは、水が熱エネルギーを奪うということなんだね!
夏場でも“打ち水”ってよくすると思うけど、あれは水が蒸発する際に周りの暑い空気から熱を奪っているから涼しくなるんだよ。
そしてこの時奪う熱のエネルギー量も決まっていて、その値は
2,257kJ
です。(1kgにつき)
1kJについて補足説明
1kgの水が蒸発するだけで、約2,300kJの熱を周囲に放出するのですが、どれだけ凄い数値かちょっと想像しにくいと思います。
ここでkは1000倍を表す接頭辞キロのことで、Jは「ジュール」でエネルギーを表す単位です。
そして「1kJ(キロジュール)=238.85cal」という関係があります。calは「カロリー」のことです。
すなわち2,300kJは、
2,300kJ⇒2,300×239⇒550,000cal⇒550kcal
となります。
ここで成人男性の1日の平均摂取カロリーが、約2500kcalなので、550kcalというのはそれの約4分の1となります。
わかりやすく例えるなら、お昼の間食としてマロンパイを2個食べたということでしょう。
そしてこのエネルギーを運動エネルギーに例えるなら、
「重さ230t(=23,000kg)の物体を1m持ち上げる時のエネルギー」
となります。
重さ1kgの物体を1m持ち上げる時の仕事量が2.34カロリーだよ。
何と水1kgだけが蒸発するだけでも、これだけの巨大なエネルギーが発生していたんです!
水蒸気が水になる際は熱を放出!
さて今まで説明したのは、水が蒸発する際の熱の移動でした。
しかし実は、水は蒸発で気体分子になると同時に、水蒸気から水に戻る現象も起きています。
これは一度水蒸気として気体分子となった水が、液体の水の表面でぶつかって液体の水分子に捕獲されているためです。
水分子は水素結合といって、互いに結合する力が強いからこういった現象が起きているのです。
この水蒸気から水に戻る現象を「凝縮」と呼びます。
この現象は蒸発とは完全に逆で、熱を奪っているのではなく、熱を放出しているのです!
この時放出する熱の事を「凝縮熱」と言うのですが、数値は蒸発熱と同じでやはり水1kgにつき2,257kJです。
日本に接近する台風が発生するのは広大な太平洋の海上です。太平洋ともなると蒸発する水の量はとてつもなく巨大になるでしょう、台風が猛烈な風速を誇るのも頷けますね。
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台風が発生するメカニズム
さてこれまでは水が水蒸気に変化する際の熱移動と、水に戻る際の熱移動について解説しました。
ではこれが台風の発生とどう関係するか、より詳しく見ていくことにします。
台風の定義について改めて説明しますと、北西太平洋で存在する熱帯低気圧のうち、低気圧域内の最大風速が17m/s以上にまで発達したものとなります。
海水面の上では水蒸気がありますが、前項でも解説したように、水蒸気は熱を奪うので水蒸気を含む空気は周りよりも暖かいです。
ここで空気の性質について簡単に解説しますと、暖められた空気は上昇し、冷えた空気は下降するという性質があります。
この性質のため、海の上にある水蒸気はどんどん上昇していくのですが、上昇しすぎると今度は水蒸気自体が周りの空気から熱を奪われ冷えていきます。
すると今度は水蒸気が凝縮して水滴になって、周りへ大量の熱を放出します。
大量の熱を放出するわけですから、水滴の周りを囲む空気はやはり暖かいままで、さらに上昇を加速させます。
以上の過程を図で表しますとこうなります。
一言でまとめるなら、水蒸気を多く含んだ空気が上昇気流で上昇し続けると同時に、熱を放出してさらに空気を暖めることで、上昇気流をさらに加速させます。
このようにして加速された上昇気流によって、空気の流れも猛烈になっていき、ゆくゆくは暴風にまで発達するということです!
台風の中心はどうなる?
上昇気流が繰り返し続くと、小さな渦が大きな渦にまで発展し、やがて台風へと発達します。
これが台風を衛星画像で見た画像ですが、ご覧のように巨大な渦を巻いていますね。熱い海水の熱の上空にある限り、台風はどんどん大きく育っていきます。
またご存知のように台風は中心に向かって左回りに風を吹いています。
どうして中心に向かって風が吹くかと言いますと、それは気圧差が関係しているからです。
天気予報でよく耳にするヘクトパスカル(hPa)というのは、気圧の単位のことですが、これが小さければ小さいほど台風の勢力が大きいことを意味します。
※圧力の単位のパスカルとヘクトパスカルとの違いについて詳しく知りたい方は、こちらのページもどうぞ!
圧力の単位として用いられているのはパスカルであることは学校の理科の授業でも習いますね。だけど天気予報でよく聞くのはヘクトパスカルです。2つの定義の違いは何なのか。キロパスカルが使われない理由と合わせて解説していきます。
先ほども説明したように、台風は暖められた空気が上昇気流を繰り返して上に上がっていくわけですが、その下の方では空気の量が減っていきます。
すると空気が減った分気圧も下がる事になります。ここで中心部との気圧差が膨れ上がるので、周りから大量の空気が中心に向かって吹くわけです。
台風や洗面台から流れる水はなぜ左回りの渦を作るのか?また北半球と南半球では向きが逆になりますが、それらの理由を物理のコリオリの力を利用して解説していきます、ぜひご覧下さい!
台風の勢力の維持には海水温が鍵!
上で紹介した静止衛星の画像では、物凄い量の雲が渦を作っているのが見て取れますが、ここまでの渦に発達するには海水の温度が決め手となります。
概ね26℃以上の水温になると、たくさんの水蒸気を発生させますが、日本に接近する台風のほとんどは熱帯の温度が高い海水の上空で発生します。
これも先ほど説明した内容をおさらいすればわかると思いますが、台風のエネルギー源は水蒸気が水滴になる際に放出される熱でしたね。
つまり水蒸気が多ければ多いほど、台風はより勢力を維持しやすいことになります。
そして水蒸気の量を増やすには、海水の温度が高くないといけません。
なぜなら温度が高いほど水分子の運動エネルギーが高くなって、水蒸気が発達しやすくなるからです。
台風は夏から秋にかけて発達しやすいのも、これで納得できるでしょう。
もちろん年中熱帯気候の赤道付近では、冬でも台風が発生します。
仮に海水温が35℃とかまで上昇したら、恐らく人類が経験したことのない巨大な台風が出来上がるのではないでしょうか?
あくまで想像に過ぎませんが、やはり地球温暖化というのは本当に深刻な問題なんですね。
因みに台風のエネルギー源は暖かい海水から与えられる水蒸気ですから、台風が陸地に上陸したり、北上を続けるとエネルギーの補給源となる水蒸気が絶たれてしまい、次第に勢力は衰えます。
今回のテーマは台風の名前の付け方のルールについてです。日本では番号が付きますが、どういった順番なのか?またアメリカで発生するハリケーンの命名の違いや、アジア名についても詳しく紹介していきます。
まとめ
今回は台風のエネルギー源と、発生の仕組みについて詳しく解説しました。ではまとめといきましょう。
- 台風のエネルギー源は水蒸気が水に凝縮する際に放出する熱
- 水の凝縮熱で上昇気流が激しく起こり、中心部は気圧が下がりやすくなる
- 台風の勢力の維持には海水温26℃以上が条件
台風のエネルギー源が、水蒸気の持つ熱エネルギーだけだったというのは改めて驚きます。
やはり自然の脅威というのは恐ろしいですね。
人間は自然に逆らえません。台風そのものの発生を防ぐ手立てを講じることは不可能なので、万全な備えというのが必要になってきます。
台風の危険から身を守り、安全に配慮できるよう、少なくとも日々天気予報と発生した台風の進路は確認は怠らないようにしましょう。
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