ヘクトパスカルという言葉は天気予報で聞く機会が多いですよね。
先日発生した台風○○号は、中心気圧が900ヘクトパスカルの猛烈な勢いで北上中です。
こういった感じでお天気キャスターがよく発言することは多いですが、そもそもヘクトパスカルの詳しい意味をご存知でしょうか?
主に低気圧や台風の中心気圧について、「○○ヘクトパスカル」と表現することから、圧力の単位だろうとは何となくわかります。
だけど学校の理科の授業では、圧力の単位は単に「パスカル」一語でも表現されるのです。
では「ヘクト」とは一体何なのか?
名前的にパスカルよりも大きな数値になりそうな感じはしますが、それならキロやメガといった接頭辞が使われないのも気になりますね。
ということで今回は、ヘクトパスカルとパスカルの定義の違いを中心に紹介していきます。
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パスカルとヘクトパスカルの違いとは?
パスカルとヘクトパスカルの違いについて触れる前に、まずパスカルとヘクトパスカル、それぞれの定義について簡単に紹介しておきます。
- パスカル(または㎩)とは、面積1㎡に1ニュートン(N)の力が作用する時の圧力
- ヘクトパスカル(またはhPa)とは、面積1㎡に100ニュートンの力が作用する時の圧力
このようになります。
どちらもやはり圧力という点では同じですが、注意してみるとパスカルが1ニュートンの力、ヘクトパスカルが100ニュートンの力となっている箇所が違いますね。
すなわちヘクトパスカルとはパスカルの100倍なので、「1hPa=100㎩」となるだけです。
h(ヘクト)は100倍を表す接頭辞なので、「パスカルの100倍=ヘクト・パスカル」ということです。
たったこれだけの違いなんですね。
でもこれだけでもよく分かり辛い感じがします。
そもそも1ニュートン(=1N)って、どれくらいの力なのかが分からないですよね?
ここでは敢えて簡単に解説しますが、1Nというのは100gの物体を持った時に感じる力となります。
身近なもので例えるなら、100gはきゅうり1本の重さとほぼ同じです。(他にもセロリとかみかん、柿などがあります。)
そのため1㎩は「面積1㎡の薄い板(ほぼ0g)にきゅうり1本を乗せて、それを持った時に感じる重さ」と言い換えられます。
単位に使われているパスカルの由来は、フランスの物理学者ブレーズ・パスカルに因んでいます。
物理学者としても実績のある人ですが、哲学の分野では「人間は考える葦である」という名言でも有名な人です。
台風の中心気圧をパスカルで換算!
天気予報で聞く機会が大きいのはヘクトパスカルの方ですね。
特に台風が発生した時や北上している時には嫌でもキャスターが口にしますが、この時の中心気圧はだいたい900~1000前後となっているケースが多いです。
最も勢力が強いのは、「猛烈な勢い」を誇る台風の中心気圧の約900hPaで、これを㎩で換算すると
900hPa=90,000㎩
となります。
仮に上の定義通りの解釈で考えますと、猛烈な台風とは「面積1㎡にキュウリが9万本(重さにして9,000kg)乗って、それを持った時に感じる重さ」となります。
とても持ち上げられそうにないですね(;*_*
ただここで注意しないといけないのが、台風の中心気圧というのは大気圧よりも低い数値なのです。
一見気圧が大きければ大きいほど、勢力が大きくなりそうなイメージを持たれがちですが、実はその逆で気圧が低ければ低いほど台風の勢力は増します。
これは単純に風速の強さに関係することで、要は空気というのは気圧が高い所から低い所へ流れるのです。
ここで一般的な大気圧の数値を紹介しますと、およそ1000hPaなので、台風の中心気圧は当然1000よりも低くなります。
そのため台風の中心に向かって、風が吹いているという形になります。
1000hPaということは、重さにして10万kg(10t)だね。10tトラックが乗っかっているということだから、地球の大気圧って凄いんだな!
因みに天気図を見ると、台風の風の向きが左回りになって渦を巻いていますよね。その原理については以下の記事で詳しく紹介しています。
台風や洗面台から流れる水はなぜ左回りの渦を作るのか?また北半球と南半球では向きが逆になりますが、それらの理由を物理のコリオリの力を利用して解説していきます、ぜひご覧下さい!
単純な話になりますが、この中心気圧が低ければ低いほど大気圧との差が増えるので、風速も増すことになります。
それこそ中心気圧が800hPaくらいにまで下がると、計り知れない規模の台風に成長しますね。
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どうしてキロパスカル(k㎩)を使わないの?
ヘクトパスカルはパスカルの100倍で、ヘクトというのはヘクタールにも使われている100倍を表わす接頭辞です。
だけどちょっと腑に落ちない部分がありますよね。
1hPaが1㎩の100倍というのはわかったけど、それならk(キロ)を使って、「1000㎩=1kpa」とした方がいいんじゃない?
このような疑問を抱く人もいるのではないでしょうか?
確かに長さとか重さの数値なんかは、1000以上になるとk(キロ)とかM(メガ)で換算しますよね。
どうして圧力だけわざわざ「ヘクト」を用いるのでしょうか?
ここでその背景を少し探っていくことにしましょう。
ヘクトパスカルは元々別の単位だった?
天気予報の歴史は意外と古くて、既に1900年代の初頭から行われていました。
その頃に用いられていた気圧の単位はヘクトパスカルではなく、ミリバール(mbar)という単位でした。
この単位は実は日本でも1992年までは天気予報で用いられていたので、年配の方であれば聞いたことある人は多いでしょう。
1911年にノルウェーの気象学者のV・ビヤークネスによって提唱されました。
1ミリバール(1mbar)が1バールの1000分の1なので100㎩になり、ちょうど1hPaと同じ大きさになります。日本では1945年から用いられていました。
だけどこの単位は実は国際単位系(SI)では、使用がされていませんでした。
国際単位系としては、圧力の単位としてはパスカルを使用していたので統一した方がいい、という動きが出始めたのです。
そのため気象学の分野でも、ミリバールからパスカルへの移行を決定したということになります。
ただそうなると、本来は他の単位と同様に10³の接頭辞であるキロ(k)を用いるべきところです。
キロパスカルならば、大気圧の1000hPaは100k㎩と表記できます。
なぜヘクトという中途半端な接頭辞を用いたのかと言うと、実は1hPaが1mbarと等しいからです。
バールの定義をおさらいしますと、「1bar=100,000㎩」でしたね。
つまり「1bar=100,000㎩=1,000hPa」なので、これの1000分の1の接頭辞であるm(ミリ)をくっつければ、
1bar=1,000mbar=1,000hPa
よって1,000mbarは1,000hPaと等しいので、互いを1000で割れば「1mbar=1hPa」となります。
メリットは他にもあって、それまで使われていたmbarとスケールが全く一緒なので、例えば過去の気象観測のデータをhPaに換算する際にも便利となります。
主に気象学者の要望もあったおかげですが、hPaが採用されたのはこうした背景があったのです。
アメリカでは現在もミリバールが採用されているけど、アメリカは現在も独自の単位系を利用しているね。やっぱりプライドとかがあるのかな?
キロパスカルを用いるのはどんな場面?
主に気象学で用いられているのはヘクトパスカルの方なので、キロパスカルやメガパスカルを耳にする機会は少ないかもしれません。
だけどヘクトパスカルはあくまで気象学における例外的なものなので、工学系や測量の分野では普通にキロやメガを使用します。
身近な物の圧力の数値で例えますと
- 圧力鍋:約100k㎩
- タイヤの空気圧:約250k㎩
- 水道の圧力:約1M㎩
となっています。
圧力鍋を使うと普段よりも短い時間で調理できるので利用する人は多いと思います。圧力鍋がなぜ短い時間で調理できるのか、その仕組みを水の沸点と圧力の関係を用いて解説します。また圧力鍋の調理に向いている料理についても紹介しておきます。
水道の圧力にいたっては大気圧の10倍の大きさですが、これだけ大きくないと各家庭に水道が送られないんですね。
おまけ:kgf/㎠という単位もある?
圧力の単位はパスカル以外にもいくつかあって、工学系では以前までは1kgf/㎠が使われていました。
1kgfとは1重量キログラムを意味し、これは1kgの物体が受ける地上で受ける重力の大きさと定義されています。
具体的には「1kgf≒9.8N(ニュートン)」と換算されます。
つまり1kgf/㎠とは、面積1㎠あたりに9.8Nの力がかかっていることを意味するのです。
1㎠は小指の先っぽくらいの面積なので、そこに1kgの重さが乗っかっていることになります。
1kgといえば、1Lのお茶が入ったペットボトルとほぼ同じ重さです。出来る人は出来るかもしれませんが(笑)
ここでパスカルの定義を振り返りますが、「1㎡(=10,000㎠)あたりに1Nの力がかかっている状態の圧力」なので、「1kgf/㎠≒98,000㎩」と置き換えられます。
これをもっと簡略化して「1kgf/㎠=100kPa」と換算している場合が多いです。
工学系の仕事に就く場合はお世話になるかもしれないので、覚えた方がいいかもしれないですね。
まとめ
今回はパスカルの定義について詳しく紹介してきました。それでは最後にまとめといきましょう!
- パスカルの定義は「面積1㎡に1ニュートン(N)の力が作用する時の圧力」
- ヘクトパスカルはパスカルの100倍、ヘクトは100倍を表す接頭辞
- 大気圧の大きさは10万㎩、あるいは1,000hPa
- 気象学でキロパスカルが使われないのは、それまで使われていたミリバールがヘクトパスカルと同じスケールだったから
- 工学の分野ではキロパスカルが用いられる
圧力のパスカルの定義について理解が深まったでしょうか?
またパスカルだけでなくバールやkgf/㎠とかいろいろ出てくるので、圧力の単位というのは複雑なものですね。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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こんにちは、パスカルについての話、絵なども多くて分かりやすく面白かったです。
ただ、内容で少し間違いではないかと思われるところがあったのでコメントします。
「面積1㎡にキュウリが9万本(重さにして90kg)」
という部分がありますが、これは0.1kg×90000=9000kg(9t)になるのでは
ないかと思います。
また、1000hPaの重さの例ですが、重さ100kgだと100×9.81で981Paにしか
ならいので、例えとしては50kgの人が2人ではなく、200人が正しいと思います。
お忙しい中とは存じますが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます、当ブログ管理人のヒデオです。
ご指摘の通りの数値で間違いございません。
誤解を招いてしまい、大変申し訳ございませんでした。
1Nというのがどうもよく実感できなかったところ、貴サイトの分かりやすい説明により非常に身近に実感できるようになりました。ありがとうございました。
なお、「1000hPaということは、重さにして10万kg(10t)だね。」というのは「1万kg(10t)」の誤植かと思われます。