今日本の近海で採取できる貴重なエネルギー源として注目されているのがメタンハイドレートという物質です。

これはその名の通りメタンを含んだ固体ですが、従来の化石燃料に比べて二酸化炭素排出量も半分であり地球温暖化対策としても有効な新エネルギー源として注目されています。

メタンハイドレートの埋蔵量

先日愛知県沖の東部南海トラフの海底に眠るメタンハイドレートからガスの採取試験に成功したというニュースが入ってきました。

今後のエネルギー資源開発の発展に期待がかかりそうで将来的には日本の救世主になるかもしれません。

日本の近海にはどれだけのメタンハイドレートが埋蔵されているのか、商業生産への課題も紹介しつつ今後の展望を占っていきます。




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メタンハイドレートについて詳しく解説!

まずはメタンハイドレートについてどういった化学的性質を持った物質なのか、それについて簡単に解説していきます。

メタンハイドレートの解説

メタンハイドレートとは冒頭でも説明したようにメタンを含んだ固体状の物質です、ただしその見た目はどこからどう見ても氷にしか見えません。火をつけるとメタンの可燃性のために燃え上がるため、”燃える氷“とも言われます。

メタンはCH4という化学式で表される可燃性のガスであることは有名です、ではハイドレートとはどういう意味でしょうか?

ハイドレートとは英語で”hydrate”と表記し、意味は「水和物」となります。つまりメタン水和物ということになりますが、水分子がある温度と圧力環境でかご状の構造を作り上げてメタンハイドレートを生成しているのです。

ここで誤解してほしくないのが、水和物ということなのでメタンハイドレートはメタンと水の混合物ということではありません。水和物とは水分子の分子規模の空間の中に他の分子が取り込まれた化合物ということで、化学用語ではこれを包接化合物と言います。

メタン以外にも硫化水素・二酸化炭素なども水分子に取り込まれてハイドレートを形成しますが、日本近海で産出される天然のハイドレートのほとんどがメタンとなっているのでメタンハイドレートと呼んでいるということです。

そのため火を近づけると中に含まれているメタンが燃焼して、燃えない水だけが残るということになります。

メタンハイドレートが生成・存在できる条件とは?

メタンハイドレートがどんな物質がこの目で見てみたい!という方は多くいると思います。しかし残念ながら我々が住んでいる地上の環境ではメタンハイドレートは存在できません。

メタンハイドレートが産出されるのは主に海底ですが、実はメタンハイドレートが安定して存在するためには低温かつ高圧という2つの条件が必要なのです。

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我々が生活している地上は1気圧という条件になりますが、この気圧下でメタンハイドレートが安定して存在するにはマイナス80℃以下でないといけません。

逆に高い水圧がかかる海底だと、50~100気圧という条件になりますが、これだけ高い圧力がかかれば水温もプラス6℃以上と比較的高い温度でも安定して存在できるのです。

水深500mより深い海底がメタンハイドレートが存在する好条件とも言われています。ここまで深くなると太陽光すら届かない暗い深海の世界です。水深200m以上の海域を深海と言いますが、高水圧で低水温で暗闇という過酷な世界のため現在の技術力では探査が及ばない領域がほとんどと言えます。

メタンが海底で生成される原因は?

なぜ海底にこれほど多くのメタンハイドレートがあるのでしょうか?これに関してはいろいろな説があってはっきりした確証は得られていませんが、有力なのは生物由来で生成されるという説です。

メタンを生成しているのはメタン生成菌という名の細菌です。このメタン生成菌が大量に生息しているのが実は海底にある堆積物で、地球上で放出されるメタンの大半を合成しています。

メタンを生成する菌が生息していて、尚且つメタンが水和物として取り込まれる環境が両方揃っているのが海底ということになります。そのため海底はメタンハイドレートの宝庫となっているわけです。

(これ以外にも海底火山から噴出されるマグマから生成されるという説もあります。)




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メタンハイドレートの埋蔵量はどのくらい?

近頃ニュース番組でもよく取り上げられるようになったメタンハイドレートですが、ここまで話題を集めているのは日本近海に大量に眠っていることが指摘されているからです。

では気になる埋蔵量ですが、一体どのくらいなのでしょうか?

まずは世界全体のデータから調べてみると、陸上では数十兆㎥、海域では数千兆㎥と推計されています。その内日本の近海に目を移すと、東海地方沖から宮崎県沖に走っている南海トラフと北海道の周辺海域に大量に埋蔵されているとされて、その埋蔵量は約6兆㎥と推計されます。

この量は日本が1年間で使用する天然ガスの100年分の量に匹敵すると言われていて、もしもメタンハイドレートを安定して生産できるようになれば日本は世界有数のエネルギー資源国になる可能性もあります。

昔から日本は資源に乏しい国だと言われていますが、島国で巨大な排他的経済水域を有しているので、海洋資源に関しては非常に豊富なのです。

日本海側と北海道周辺の埋蔵量は?

では日本海側ではどのくらいの埋蔵量なのか?

これについては日本海側には海底表面に塊の状態で多く存在していることが独立総合研究所などの調査でわかっています。

ただしまだ一部の学術的な調査にとどまっていて、国の機関で本格的な調査・産出試験が実施されていないのが現状です。

国の指針では後10年以内に商業化を目指すことにしていることになっています。

この指針どおりに2013~2015年の国のプロジェクトで日本海の調査可能な海域をくまなく調査した結果、新潟県上越沖と能登半島沖だけでメタンハイドレートを含むとされる特殊な地形が225ヵ所見つかったことが2013年8月に経済産業省から発表されました。詳しくは以下のページをご覧ください。
表層型メタンハイドレートの資源量の試算とその結果の検証を行いました

日本海側での調査がされなかったことについては、南海トラフ側の調査よりも予算が低く見積もられていたのが原因です。

実は技術的には日本海側の方が海底の上までメタンハイドレートが密集している場所が多いので採掘しやすいのです。

これについては石油利権に絡む研究者や企業などが、メタンの方が圧倒的に温室効果を促進しやすいということを理由に反対の姿勢をとっているからだとされています。



さらに北日本に目を移すと、2013年6月にロシアのとある科学機関が千島列島と北方領土の大陸棚に最大で87兆㎥規模のメタンハイドレートが埋蔵されているという調査結果が出ました。

ただしメタンハイドレートの商業化には、以下に示すような難題もあるようで簡単には行かないのが現状です。

ガスを安定的に採取する技術を確立できるか?

日本近海に大量に眠っているメタンハイドレートは、ある意味宝の山ともいえます。しかしまだまだ商業生産の目途が立っていないのが現状です。

最大の課題は、メタンハイドレートが埋蔵されている場所が海底だということにあります。海底には巨大なメタンハイドレートの塊があちらこちらにありますが、深海は巨大な水圧がかかる環境で太陽光も届きません。

そしてメタンハイドレートは先ほども説明したように常温・常圧という環境ではその形状を維持できません。そのまま取り出そうとしても急速に溶けて失われるので、その場でメタンを抽出しないと安定した生産はできません。

アメリカのシェールガス台頭も懸念

もう一つの懸念材料がアメリカのシェールガスの台頭です。近年生産を拡大してきて石油に代わる新たなエネルギー源として注目されていて、特に北アメリカ大陸で最も多く産出されています。

中東情勢も不安を増す中今後石油の価格がどうなるかわかりません、そんな中でアメリカ政府がシェールガスの生産と輸出を拡大すれば日本は今よりも安く天然ガスを輸入できる可能性も高くなります。アメリカの経済政策次第ですが、基本的に国益を重視するとシェールガスの輸出は今後さらに拡大すると見えるでしょう。


しかしそうなりますと、コスト的に考えてシェールガスへの依存度が高くなりそうです。

今でこそ石油や天然ガスといったエネルギーは輸出に依存するしかないのが日本の実情なので、今後さらなる技術革新で生産コストを下げない限りは、メタンハイドレートの商業生産の実現の目途は立たないと言えます。

石油も石炭も天然ガスも採取できない日本では、メタンハイドレートは新エネルギー資源として期待されています。

国は来年度を目途にガスを抽出する基礎的な技術をまとめる方針のようですが、具体的には約50社の日本企業も連携しているようで、2023年以降のメタンハイドレート商業化を目指しているとのことです。計画が順調に進めば、6年後にも日本は安定したエネルギー源の生産が可能となります。

アメリカのシェールガス革命に負けないくらいのエネルギー革命を日本で起こして欲しいものですね。




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